書籍「デザインの伝え方」を読んで

デザインの伝え方

デザインの伝え方

デザインの伝え方」を読んで、「ソフトウェア開発とは創作とコミュニケーションの協調ゲームである」という Alistair Cockburn *1 の言葉を思い出しました。

デザインの伝え方」は、製品やサービスのデザインに関わるようなデザイナーに向けて、デザインの実現に影響ある人々(ステークホルダー)とどのようにコミュニケーションしていったらよいかが書かれた書籍です。具体的には、そうした人たちにデザインを伝える際に気をつけるべきこと、コミュニケーションギャップの埋め方、必要な心構え、そして合意形成のテクニックなどが書かれています。

なぜ、上記のようなデザイナー向けの書籍から、前述の言葉を思い出したかというと、語られている内容やその根本にある考え方が、Alistair Cockburnの書いた「アジャイルソフトウェア開発 (The Agile Software Development Series)*2とオーバーラップしたからでした。

たとえば、「デザインの伝え方」には「偉大なデザイナーは偉大なコミュニケーター」という章があります。その章では、デザインにとっていかにコミュニケーションが大切かということが書かれています。そして、「アジャイルソフトウェア開発 (The Agile Software Development Series)』にも「コミュニケーションスペシャリストとしてのプログラマ」という節があります。この節の前後では、「ソフトウェア開発とは創作とコミュニケーションの協調ゲーム」であるという考えのもと、プログラマーにとってコミュニケーションが重要であること、コミュニケーションの効果がどうプロジェクトとその成果物であるソフトウェアに影響するか、ということが語られています。

かといって、両者がまったく同じ内容を単に別の立場(プログラマーとデザイナー)から書かれたものであるかというと、そうではありません。大きな違いは目線の高さにあります。

アジャイルソフトウェア開発 (The Agile Software Development Series)」は、プロジェクトを設計/運営するという高い視点から「創作とコミュニケーションの協調ゲーム」への取り組み方が書かれています。そのため、記述はどうしても俯瞰的なものとなりますし、そうすることで見える景色が書籍の魅力にもなっています。

それに対して、「デザインの伝え方」は、プレイヤーという視点から「創作とコミュニケーションの協調ゲーム」への取り組み方を示します。特に上手いのは、漠然とコミュニケーションが大事だと言うのではなく、トピックを「合意形成」という一点に絞ってゲームをうまく進めるために必要な心構え、能力、テクニックを解説している点です。合意形成スキルは、私たち「コミュニケーションスペシャリストとしてのプログラマ」にも、とても大事な能力だと考えます。以上のことから、この書籍はデザイナーに限らず「創作とコミュニケーションの協調ゲーム」に参加するプレイヤーにとって実践的で魅力的な内容になっていると感じました。

デザインの伝え方」は、書籍の作り方から、一見すると開発者の人が積極的には手を伸ばし辛い雰囲気があります。けれど、少なくとも2章3章5章6章あたりは「リーダブルコード ―より良いコードを書くためのシンプルで実践的なテクニック (Theory in practice)」などと並んで、サービスやプロダクト開発に携わるプログラマーであれば、コミュニケーションスキルの基礎教養の一つとしておさえておきたい内容だと感じました。

*1:Alistair Cockburn は、アジャイルソフトウェア開発宣言 の共著者、そして「クリスタル・ファミリー 」という方法論の提唱者としてよく知られている人物です。最近では、牛尾さんのブログに彼や彼の業績を紹介するエントリ がありました。

*2:本エントリを書いていて Dave Thomas によるレビュー「People over Process, Interactions over Tools 」を見つけました。これは素晴らしいレビューで、ぼくが本書の魅力を語るよりもこれを読んでもらった方がよっぽど魅力が伝わりそうに思いました。まだ目にしたことがない人はぜひ読んでみてください。第2版をいつか新訳で読みたい/出したい。