翻訳を担当した書籍『ソフトウェア設計の結合バランス 持続可能な成長を支えるモジュール化の原則』(インプレス)が2025年10月17日に発売となります。
本書は、2024年10月に出版されたVlad Khononov著『Balancing Coupling in Software Design: Universal Design Principles for Architecting Modular Software Systems』(Addison-Wesley Professional)の全訳となります。
著者は、『Learning Domain-Driven Design』(邦訳『はじめようドメイン駆動設計』)の執筆でも知られるVlad Khononov氏です。
氏の2冊目の著作となる本書は、ソフトウェア設計における「結合(coupling)」に焦点を当てた一冊となっています。
結合はソフトウェア設計に関する多くの書籍で扱われます。ですが、説明に多くのページが割かれることもなく、説明も断片的になりがちです。対して、本書は一冊まるごと使って、結合を深く掘り下げていきます。
本書の具体的な目次は次のとおりです。
■第I部 結合 第1章 結合とシステム設計 第2章 結合と複雑性:クネビン 第3章 結合と複雑性:相互作用 第4章 結合とモジュール性 ■第II部 次元 第5章 構造化設計におけるモジュール結合 第6章 コナーセンス 第7章 統合強度 第8章 距離 第9章 変動性 ■第III部 バランス 第10章 結合の均衡化 第11章 結合の再均衡化 第12章 ソフトウェア設計のフラクタル幾何学的性質 第13章 均衡結合の実践 第14章 結論 第15章 エピローグ
第I部では、結合と複雑性・モジュール性の関係を整理して、結合を「避ける対象」から「設計する対象」へと捉え直します。
第II部では、モジュール結合やコナーセンス1といった歴史的な結合モデルを踏まえた上で、強度・距離・変動性という結合を測る3つの次元を学びます。
そして、第III部では、その3つの次元をバランスさせることでより良い設計を導く「結合均衡モデル(balanced coupling model)」を学びます。第13章では、いくつかののケーススタディを通して、このモデルが、アーキテクチャレベルからコードレベルまで、さまざまな抽象化レベルを跨いで有効であることも示されます。
本書は、これまでの「高凝集・疎結合(high cohesion, low coupling)」という単純なスローガンから、結合の議論を一段引き上げるものです。たとえば、「変動性が低いなら強度の低さを許容し得る」「強度が低い結合は距離を離し、強度が高い結合は距離を縮める」といった判断を、変更コストなどを踏まえた現実的な設計指針として手にできます。
著者による本書の試みは、『Tidy First?』においてKent Beck氏が示した関心とも共鳴しています2。
時間とともに「結合」という言葉の意味は失われ、システム内の要素間のあらゆる関連を指すようになった。「このサービスはあのサービスと結合している」とは言うが、どのように? どんな変更に関して? サービスが別のサービスを呼び出すだけでは不十分だ。あるサービスに対するどんな変更が別のサービスの変更を必要とするかを知る必要がある。 -- Kent Beck 『Tidy First? 』「29章 結合」より
本書は、まさにこの課題を解決する1冊となっています。
本書が整理した知識、提示したモデル、そして提案したアプローチが、ソフトウェア設計に携わるすべての方々の助けとなり、ソフトウェア設計の実践をより成熟したものへと導くことを願っています。
- コナーセンスについては、Connascence:コードの結合度を測るもうひとつの指標 - snoozer05's blog で過去に紹介しているので、そちらも参考にしてください。↩
- 『Tidy First?』も本書も、Edward YourdonとLarry L. Constantineによる古典的名著『Structured Design』(邦訳 『ソフトウェアの構造化設計法』)が執筆の契機として挙げられており、この2冊は同時代性を持った2冊であると考えています↩


