翻訳を担当した書籍『スタッフエンジニアの道ー優れた技術専門職になるためのガイド』(オライリー・ジャパン)が来週(2024年8月26日)発売となります(電子書籍はオライリー・ジャパンのサイトでの販売となります)。本書は、2022年にO'Reilly Mediaより刊行されたTanya Reilly著『The Staff Engineer's Path: A Guide for Individual Contributors Navigating Growth and Change』の全訳となります。
本書は、技術専門職としてのキャリア成長に必要な考え方やスキルを、20年を超えるキャリアを持ち、現在も現役で上級技術専門職を務めている著者が、自身の経験をもとに整理・解説した書籍です。
具体的な目次は次のようになっています。
第I部 大局的な思考 1章 では、具体的に君はここで何を? 1.1 スタッフエンジニアとは一体何なのか? 1.2 ご高説ごもっとも。で、私の仕事は何? 1.3 役割を理解する 1.4 スコープ、形状、重点事項を一致させる 1.5 まとめ 2章 3つの地図 2.1 あれ、誰か地図は持ってきた? 2.2 ロケーターマップ:観点を手にいれる 2.3 トポグラフィックマップ:地形を学ぶ 2.4 トレジャーマップ:向かう先は? 2.5 あなた自身の旅 2.6 まとめ 3章 全体像を描く 3.1 シナリオ:SockMatcherには計画が必要です 3.2 ビジョンとは何か? 戦略とは? 3.3 働きかけ 3.4 作成 3.5 ローンチ 3.6 ケーススタディ:SockMatcher 3.7 まとめ 第II部 実行 4章 限りある時間 4.1 全部やる 4.2 時間 4.3 リソース制約 4.4 プロジェクトを選ぶ 4.5 まとめ 5章 大規模プロジェクトをリードする 5.1 プロジェクトのライフサイクル 5.2 プロジェクトの始まり 5.3 プロジェクトの推進 5.4 まとめ 6章 なぜ止まってしまったか? 6.1 プロジェクトが動いていない。動かすべき? 6.2 あなたは迷子 6.3 たどり着いた……どこに? 6.4 まとめ 第III部 レベルアップ 7章 今はあなたがロールモデル(お気の毒さまながら) 7.1 良い仕事をするとはどういう意味? 7.2 有能であること 7.3 責任ある行動を取ること 7.4 目的を忘れないこと 7.5 先を見据えること 7.6 まとめ 8章 良い影響力を広げる 8.1 良い影響力 8.2 アドバイス 8.3 教育 8.4 ガードレール 8.5 機会 8.6 まとめ 9章 この先は? 9.1 あなたのキャリア 9.2 現在の役割 9.3 ここからの道のり 9.4 リセットする準備 9.5 選択が重要 9.6 まとめ
スタッフエンジニアについて
スタッフエンジニアの「スタッフ(staff)」は、軍事用語における「参謀(staff)」を指します。
参謀(さんぼう、独: Stab、英: staff、仏: État-Major)とは、作戦・用兵などに関して計画・指導にあたる将校 ...(略)... 軍隊において部隊の指揮系統は単一であるために、あらゆる決心は指揮官が単独で行う。しかしながら高級指揮官は軍事作戦を指揮統制するために処理すべき情報や作業が膨大なものとなる。これを組織的に解決するために参謀組織が情報収集、情報処理などの面で高級指揮官を補佐することとなる。そのために指揮官に対する発言権は認められていたとしても、部隊の指揮権は持たない。
こうした役割を求められるスタッフエンジニアという具体的な職も存在する一方、シニアよりも上位の技術専門職(インディビジュアルコントリビューター, IC)には、一定こうした役割が期待されます。そのため、職位としてのスタッフエンジニアと区別して、こうした働きが求められるシニア以上の技術専門職をまとめた総称として「スタッフ+(スタッフプラス)」という呼称も出てきています。
本書は、ソフトウェアエンジニアリングの専門家として、組織やビジネスを現場から独立した形で支えることが期待される、そうした上級技術専門職に求められる考え方やスキルを解説した書籍です。
『スタッフエンジニア』との差分
スタッフエンジニア、スタッフプラスの役割を解説した書籍としては、もう一冊、Will Larsonの『Staff Engineer: Leadership beyond the management track』(邦訳『スタッフエンジニア:マネジメントを超えるリーダーシップ』)が存在します(本書の著者であるTanya Reillyが序文を書いています)。
ソフトウェアエンジニアが、マネジャーやCTOといったマネジメント職に進むのではなく、技術力を武器にテクニカルリーダーシップを発揮して、エンジニアリング職のキャリアパスを登っていくための「指針」と「あり方」を示します。
Will Larson自身はスタッフエンジニアではなくマネージャーであり、Will Larsonの方の書籍は、実際のスタッフエンジニアへのインタビューなども含め、スタッフエンジニアの仕事を外側から整理した書籍となっています。
一方、本書『スタッフエンジニアの道』の著者であるTanya Reillyは長いキャリアを持つ現役のスタッフエンジニアであり、本書はスタッフエンジニアの仕事を内側から整理した書籍となっています。
両方の書籍に目を通すことで、スタッフエンジニアという役割がより立体的に理解できると考えます。
『エンジニアのためのマネジメントキャリアパス』との関係
本書の序文は『エンジニアのためのマネジメントキャリアパス』(オライリージャパン)のCamille Fournierが執筆しています。
本書は、技術系マネージャーとそれを目指すエンジニアに向けて、IT業界の管理職に求められるスキルを解説する書籍です。テックリードからCTOになった経験を持つ著者が、管理職についたエンジニアが歩むキャリアパスについて段階をおって紹介します。インターンのメンターから始まり、テックリード、チームをまとめるエンジニアリングリード、複数のチームを管理する技術部長、経営にかかわるCTOやVPと立場が変わることによって求められる役割について、それぞれの職務を定義しながらくわしく説明します。
経緯は序文に詳しいですが、『エンジニアのためのマネジメントキャリアパス』の原書のタイトルは『The Manager's Path』、本書のタイトルは『The Staff Engineer's Path』となっており、両者は姉妹本の関係にあります。
エンジニアリングのトラックに進むのか、マネジメントのトラックに進むのか。それぞれの書籍は、自身の今後のキャリアを考えるヒントになってくれます。今後のキャリアについて考えている/ 考えたいという方は両方に目を通してみると、良いキャリアパスのヒントが得られると考えます。
まとめ
多くの研究や文献が存在するマネジメント職と異なり、技術専門職のキャリアを進める際に参照できる情報はまだまだ多くありません。
日本国内でも、昨年(2023年)にWillの書籍の訳書が出版され、スタッフエンジニアという役割についての理解が少しずつ広まりつつあります。そこに本書も加わることで、国内でも上級技術専門職の仕事や役割への理解、そしてエンジニアリングリーダーシップについての議論がますます深まっていくことと思います。
本書が、エンジニアリングリーダーシップの道を進んでいく方々にとって有益なガイドになることを願っています。
「エブリン……何してる?」
「あなたの戦い方を学んでいる」
映画『Everything Everywhere All at Once』より